2008年06月01日

〈第19回浦安文学賞授賞式に出席して〉

次作には自分を書く

浦安文学賞 藤沢すみ香

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 ガラス張りのアクアテラスにいると、緑と水の上に浮かんでいる気分になります。さらに雲と雨とが日常をさえぎって心地よい空間を作っていました。
 そこへ、若々しい足取りで颯爽と登場なさったのは、渡辺淳一先生です。
 隣り合った席でしたが、先生のオーラに圧倒されて、私らしいおしゃべりも引っ込み、すっかりいい子ぶりっ子になってしまいました。
 先生にお訊きしたいことがたくさんあったのですけれど、隣に座らせていただいただけで心が満たされて、答えを頂いた気分になってしまうのです。不思議なものですね。
「今度は自分のことを書いてね」と声をかけてくださったことを大切に胸に刻み込み、次の創作にかかります。
 残念なことに、私はもう浦安文学賞に参加できないのだとか。渡辺先生に読んでいただくためには、もっと精進して、先生が選考委員をされている賞の最終に残らなくてはなりませんね。頑張ります。
 受賞者全員による自己紹介にはそれぞれの味があり、作品への興味をかりたてられました。順番に「うらやすニュース」に掲載されるそうですが、読むのがとても楽しみです。
 式次第の一つひとつに手作りの温かさが感じられ、終始絶えることのない影山様の笑顔がアクアテラスをより明るくさせていました。
 先生に頂いたお言葉と、この日の晴れやかな記憶は私の創作の原動力になるでしょう。

いやらしさも生かす

佳作 水木亮

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 台風が来ていて5月にしては寒い日でしたが、いつ見てもディズニーランドは夢のある風景です。表彰式はヒルトンホテルで行われ、会場はおしゃれなプールを眺められる素敵な部屋でした。田舎者の私は、何度もこの風景を見つめ、いいなと思いました。
 影山栄子さんの明るいお人柄、そのなめらかな司会にこころもなごみました。渡辺淳一先生、松崎浦安市長さん、今回の浦安文学賞の藤沢さんと同じテーブルでお話を伺えたことは、私の人生でまたとない楽しくうれしい時間でした。
 特に小説の世界では、どろどろした自分を徹底的にさらけだすことが肝心である、という渡辺先生のお話は、巧い話を作ろうとばかり考えて、きれい事ばかり並べていた私にはとても勉強になりました。
 先生の話を聞いていると、自分の書いたものをどういう風に書き直せばより味わい深い作品になるか、とてもよくわかるのです。
 また年を取り、少しいやらしくなった自分について、素直にそれでいいのだと自信が出てきました。自分を飾らずそのまま書いていけばいいのだと思ったのです。
 やはり直接お目にかかり、作家ご本人からお話しを伺うということは伝わるものが違います。
 また会のおもてなしがとても温かく、気持ちのよいものでした。受賞者の方々のそれぞれのお話も楽しく、時間のたつのも忘れました。
 このような機会を与えてくださった浦安ニュース社のますますのご発展をお祈りいたします。

恥ずかしさ捨てよう

佳作 真野桐子

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 用意していた初夏のスーツを春物に替え、ブラウスをセーターにし、厚手のショールを巻いて出かけて来ました授賞式。外は氷雨と言っていいような小雨がぱらつく肌寒い日でした。会場に着くと、浦安ニュース社の方が温かく迎えてくれました。やっぱり本当だったんだわ、私の入選。そう思いながら、ネームカードの置かれた座席に着きました。
 女流作家への最初の一歩を踏みだした瞬間です。次の一歩はいつ出るの、と出がけに息子に尋ねられ、二歩目が出ないまま立ち尽す近未来が見えてきて、小説の世界の難しさを思いました。
 これまでエッセイを中心に書いてきて、最近、小説に挑戦するようになったものの、掌編小説などの短いものばかりでした。初めて書いた短編小説での入選で、こんなに嬉しいことはありません。授賞式の案内が来るまでは、席に着くまでは、そして賞状を受け取るまでは、とても信じられませんでした。
 これからどんなものを書いていこうか、まだ夢心地で、皆目浮かびません。とても第二歩は出そうにありません。
 会場で渡辺淳一先生がおっしゃった、「読まれて恥ずかしいなんていう思いは捨て、開き直った図々しさで書け」という言葉に励まされ、暗中模索ながらも書き続けてみたいと思います。
 授賞式のあとの会食がこれがまた美味なこと。お隣の教育長の先生と画家の先生、テーブル越しに受賞者の面々と楽しいおしゃべりもはずみ、心の中は記念すべき五月晴れの一日となりました。

小説の目的聞き満足

奨励賞 曽我田宏次

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 式典が済み、祝賀会の席上で渡辺先生に質問をした。小説を書いておられるのは何のためかと。この問いに先生は、「自分のためだね」とあっさり答えられた。
 やはり先生は判っておられるのだなと思った。自分は言いようのない喜びを感じた。
 実は十中八九こう答えるだろうと予測していた。もし「読者のため」という答えが返ってきたら幻滅を感じていただろう。「金のため」という返事であったら必ずや軽蔑していたに違いない。なぜなら自分が小説を書いているのは自己のためだからである。自己の胸の内を書くのが小説だと思っているからである。本来文学とはそういうものではないか。
 各受賞者の講評のとき、「自己の内面を書け。血反吐を吐いて吐いて、これでもかという思いで書いた文章に読者は共感する」確かこんな意味のことをおっしゃられた。小説に対してこういう考えを持っておられるかたであるから、自分の問いに対する先生の答えを予測することができたのである。この答えを聞いただけでも授賞式に出席した甲斐があったと非常な満足を覚えた。
 当日は朝から雨が降ったり止んだりと生憎の天気であった。だが授賞式が晴れの舞台であることに変わりはない。このような晴れがましい場に慣れていない自分であるから緊張のしっぱなしであったが、この日の光景を瞼に焼き付けておこうと思った。
 今回の受賞を機に更に小説を書くことに邁進したい。関係者各位に感謝する次第である。

同窓会思わす楽しさ

奨励賞 小柳なほみ

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 足早に受賞式会場に向かっておりました。エレベーターホールに行きますと、白いドレスの美人が立っていらっしゃいました。
 見覚えのある顔だなーと、思っていますと、そこへもう一人の美人が歩いて来られました。
 その方はすぐに判りました。浦安文学賞を受賞された藤沢すみ香さんです。白いドレスの方は奨励賞の向井晴美さんでした。お二人とも皆が受賞者だと判ったようでした。
 エレベーターの中で、すぐおしゃべりが始まりました。初めてお会いしたのに、まるで旧知の仲のように話に花が咲きました。
 会場はプールサイドにひっそりと建つテラスです。三方が大きな窓になっています。プールのマリンブルーと、手入れの行き届いた樹木のグリーンが相俟って、すばらしい景色でした。
 受賞者8名と選者の渡辺先生、来賓客、主催者と3つの円卓を囲みました。その構成が皆を近付けさせてくれたのでしょう。どのテーブルも和やかに歓談されていました。
 私は、挿し絵担当の田中曽女さんと同じテーブルでした。画も然ることながら、話術にも長け、場を大いに盛り上げてくださいました。まるで、同窓会にでも出席しているような楽しさでした。
 賞状を頂くときも、自己紹介をするときも、どちらも落ち着いて出来ました。
 入賞したのは嬉しいことです。でも、和やかな雰囲気の授賞式に参加させて頂いた、こちらの方が何よりの褒美でした。

大作家の余裕に嘆息

奨励賞 加賀美祐

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 格式ある賞状を頂いたのは、中学の珠算大会以来38年ぶりです。陳腐ですが、感動をありがとうございます。
 渡辺先生は、微笑みと柔らかな物腰に、大作家の余裕があふれ、我が身と引き比べ、思わずため息が出ました。
 憧れの『シャトウ ルージュ』や『あじさい日記』などの作品を通して、貴重なアドバイスを頂きました。
 現実に雛形がないのに、壮大な舞台装置を配し、説得力あるストーリーを構築されるとは、何という想像力かと、驚嘆いたしました。
 一方、地道で精緻な取材、他人の意見に謙虚に耳を傾ける姿勢も不可欠とご教示いただき、やはり小説というものは、生半可では書けないものなのだと実感いたしました。
 実は、さえない中年男の性で、「どうしたら先生のようなモテキャラになれるのですか」と、お尋ねしたかったのですが、あまり文学的ではないので、自重しました。
 さらに先生の著作に親しんで、勉強(?)したいと思います。
 こんな半人前の私のような者に、晴れやかで刺激的な機会を与えてくださった浦安ニュース社の皆様に感謝いたします。そして、ニュース社を支えておられる浦安市民の皆様にも大感謝です。
 かくも豊かな文化を志向していらっしゃる浦安市を、今度は、ディズニー抜きで訪ねてみたいと思いつつ、関係者の皆様をがっかりさせることのないよう、せめて単行本の1冊なりとも世に出すべく、拙いながらも頑張って参ります。

人心の不思議さ実感

奨励賞 野村勇

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 思ったより早く舞浜駅に着いてしまったので、コーヒーの飲める店に入った。隣の席に、若い男女がやってきた。どういう間柄なのか、動くのはもっぱら男性で、女性はあれこれと注文するだけで、男性が食べ物を運んでくるのを悠然と待っている。紙ナプキンを男性に持ってこさせ、枚数が足りなくて再び男性が席を立つと、「一度で取ってくればいいのに」。顔をまじまじと見たい気もしたが、見たくない気もして店をあとにした。
 会場に着くと間もなく式が始まった。三面ガラス張りの会場からは青いプールと緑が見え、心地良い空間と式の進行に身をゆだねていた。やがて、心地良さだけでなく、「この文学賞に応募して良かった」という重い充足感がやってきた。それは渡辺淳一先生の言葉の数々だった。「小説は日記ではない」「感性で書く」「内面をさらす」など言葉の一つ一つを賞として頂いた思いがする。
 先生が語られた歯磨きのチューブにまつわる夫婦の話が耳から離れない。チューブの尻を折らなければ気のすまない夫。無頓着に指の跡をつけたままにする妻。最初は、その指の跡さえ愛おしく思えた夫が、十何年かを経てついに爆発する。
 人の思いの不思議。時の流れの中に置かれている人間。些事に秘められた大きな真実。
 式後、歩きたくて、海側の道を辿りながら、朝、店で隣り合わせた若い男女のことを思い出していた。彼らに今、何があり、これから何が起こり得るのか。予想もつかない玄妙な人生がそこにはあるのかもしれない。

亡き夫に捧ぐ受賞作

奨励賞 向井晴美

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 プールの見える綺麗な部屋だった。
 この日のための白いブラウススーツに身を包み、高鳴る胸を押さえつつ受賞者の人たちと挨拶を交わしていると、渡辺淳一氏が入って来られた。
 「本物やわ!」心の中で言ったつもりが声になっていたのか、横の人に「そうですね」と笑われてしまった。常にやさしい表情なのに、文章や小説のことになると目が輝き、真剣にそして分かりやすく話してくださる。
 時折窓の外に目をやると、青いプールの水面がキラキラ光っていた。
 「夢と違うんやわ。賞をもらってこんな晴れやかな場所にいるなんて」
 夫を亡くして5年が過ぎた。
 「また嘘書いてるんか」生前、私が作る小説をそう言って読みもしないで笑っていた夫。今回の賞を褒めてくれるだろうか。
 乾杯のシャンパンで酔ったわけでもないのに、胸の高鳴りが治まらない。居並ぶ方々のスピーチが続き、私の番が回って来た。口から飛び出さんばかりの心臓をもてあまし、前へ出て話す。娘、息子、孫たちに送られてここまで来た経緯を。上がってしまって自分の声が耳に届かない。
 あっという間に過ぎた3時間。楽しかった。
 渡辺先生にサインを頂いてあまりのうれしさに「冥土の土産になります」と言ってしまった。
 「若いのに」と、笑って握手をしてくださったことは、日が経つにつれて鮮明に思い出される。
 1泊して家に帰り、明くる日、起き上がれない。熱が37度8分ある。
 「これって知恵熱?」