2007年05月01日

乳がんで悲しまないために(8)
高齢なら持病や体力も考慮
東京臨海病院 外科医長・乳腺外科 鈴木貴久

 欧米では60歳後半に乳癌罹患(りかん)率がもっとも高いのに対して、日本では40歳後半にそのピークがあります。つまり、欧米人と比べて日本人は若い人が乳癌になりやすいということです。しかし、最近では75歳以上の高齢者の乳癌の方も多くみられるようになりました。
 高齢者の方はあまり自己検診をされないので、乳癌検診で異常を指摘されるか、家族が異常に気づき、来院される方がほとんどです。精密検査をしたのち、残念ながら乳癌であったことを伝えると、多くの方はこう言います。
 「こんなおばあちゃんになってから乳癌になるとは思わなかった」
 乳癌というのは、乳汁の通り道である乳管の細胞から発生することがほとんどです。歳をとるにつれ、乳腺組織は脂肪に置きかわり、乳腺は少なくなっていきます。その分、乳癌にかかる確率は減っていくとは思いますが、乳腺組織が少しでも残っている限り、乳癌は成人女性なら誰でもなりうる病気なのです。
 高齢者の乳癌の場合、治療方針に関しては一番頭を悩ませるところです。
 75歳くらいになると、高血圧や糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などたいていの方は何らかの病気をお持ちです。元気な方であれば、若い人と同じ治療ができますが、合併症がある場合は、乳癌とその病気をてんびんにかけなければなりません。
 抗がん剤は体にかける負担が大きいので、よほどの事がないと使用されないようです。手術に関しては、侵襲(手術に伴う精神的、身体的衝撃)がそれほどありませんので、全身麻酔に耐えられるのであれば、一番良い選択肢といえます。
 それでも、リンパ節の郭清(根こそぎ切除すること)を省略したり、腫瘍だけを切除するのにとどめたりといった縮小手術が行われることもあります。
 ホルモン剤に関しては、ほとんど副作用がないので、高齢者でも多く使用されています。しかし、最新のホルモン治療薬であるアロマターゼ阻害剤は、副作用として骨粗しょう症があるため高齢者では注意が必要です。
 臨床試験では75歳以上は対象から外れることが多く、高齢者の乳癌に関しては、明確な治療方針がありません。ですから個々の全身状態を把握し、その人に合った治療を検討することが大事です。
 (江戸川区臨海町1-4-2 TEL03-5605-8811)